CULTURE

週末名画座第8回『プール』なんてことのない、が愛しい

投稿日:

金曜日、その週を思い返すのにピッタリな映画を提案する、『週末名画座』。仕事終わりの深夜、うとうとしはじめた頃が上映時間です。

『プール』(制作年:2009年/監督:大森美香)

引用元:
http://eiga-chirashi.jp/view_item.php?titleid=4163

今週は、本当に暑かった。7月後半まで引きずっていたぐずぐずの梅雨はどこへやら、毎日ピーカンで30度越え。こんな炎天下の下では、仕事へ向かうだけで体力を消耗してしまう。
だから、週末、というか金曜日の夜はゆっくり家の中で涼みながら、みんなぼんやりすべきだと思う。もちろん、スカッと爽快な映画や、夏だから観たくなるホラー映画、サスペンス映画、SF超大作なんかもいいけれど、それを観るのにも体力がいる。まずはその体力を回復させるのが先決だ。
流し観しても大丈夫な映画、と言うと語弊があるかもしれないが、ストーリーや映像を楽しむというよりかは、それを観ているときの雰囲気を楽しむ映画は、少なからず存在する。なんとなく心地良い音楽と、ゆっくりとした時間経過を感じさせる映像、今朝だれかと話していたような、なんてことない会話…。私はこれを「かもめ食堂的映画」と呼んでいるのだが、まさしく、この『プール』という映画もそれに当てはまる。(そもそも両映画とも発案者が一緒なので、当たり前かもしれないけれど。)

引用元: https://eiga.com/movie/54464/

舞台はタイ・チェンマイ。突然日本を離れ、現地のゲストハウスで働く母・京子(小林聡美)を尋ねに、日本から娘・さよ(伽奈)がやってくる。現地に住む、ちょっと変わった人たち(もたいまさこや加瀬亮、現地の少年)と楽しそうに日々を過ごす母親に戸惑い、さよは距離を置くが、だんだんと交流を始め、馴染み始めるを自身で感じるようになる。そして同時に、「なぜ母は、私を置いてここへ来たのか」という疑問にも向き合う気持ちを整えていく。

正直、特に大きなことが起こる映画ではない。ひたすらに、毎朝みんなが朝ごはんを食べ、話し、家事をして、生活している。せりふも多いわけではない。けれど、そういったなんてことのない生活の機微が、ストーリーを進める。結局、私たちの生活も、そんななんてことのない日々の繰り返しで進んでいる。けれど、映画としてその小さな生活のディテールひとつひとつを描くことで、何かを語らずとも、何か大きなことを設けずとも、おのずとその映画は立体的な奥行きを生むのだなあという、当たり前のようで難しいことをこの映画は知らしめてくれる。そして、いつも映画の中心にきらきらと佇んでいるプールの涼やかさと、チェンマイのおおらかで気持ちのいい風観ているだけで心が安らぐ。彼らのなんてことない日常に、当たり前のように寄り添う建物や風土や習慣。私たちの身の回りにも、そういうものはある。例えば家の近くの小さな公園、毎朝おはようと言ってくれるマンションの管理人さん、前を通るといいにおいがするお肉屋さん、コンビニでいつもゆるい接客をしてくれるバイトの人。そういう、どうでも良さそうで、けれど実はかけがえのないものたち。
”かもめ食堂的映画”の仕掛けはそこだ。映画の単調なリズムに身を任せることで、ふと自分の生活がクロスオーバーする。なんてことないけれど美しいシーンが、自分の生活にある瞬間と重なり合うことがある。

だから、今週末の深夜は、たまった洗濯物を洗ったり、サヤエンドウの下処理をしたり、ぼんやりクイックルワイパーをかけながら、ぜひこのなんてことない、けど幸せな映画を流し観してほしい。毎日暑くてしんどいけれど、そんな日にもこうしてぼんやりできること、それが確認できるだけで、心はいくらか落ち着いてくる。この映画で美しく描かれているなんてことのないシーンは、自分の生活の一場面でもあるのだと思えるだけで、なんだか心が潤うような気にもなる。観ながら寝てしまってもいい、飽きてツイッターを覗いてもいい、映画を観ているからといって、観なくてはいけないという強制力はないのだ。自由に、ゆっくり、どうでもいい夜にこの映画を流し観して、明日の休日の体力をチャージしたい。
amazon primeでみれます)

text:ヤマグチナナコ

-CULTURE
-, ,

Copyright© CUCUMBER MAGAZINE , 2019 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.